ケータイ小説 野いちご

鷲高の王と囲われ司書

手負いの王様


退勤して自宅に戻り、一応家の中を片付けたり、シーツを替えたりしつつ、一ノ瀬くんからの連絡を待つ。
「タクシーで連れていくので、着いたら連絡します」と言われたけど、なかなか連絡がない。

‥‥男子生徒を自宅に泊める、ということが、とんでもないことなのはわかっている。
何かもっと他に、良い方法はないのだろうか。こういう場合って一体、大人としてどうすべきもの?

いくら考えても答えは出ないし、何が正解かわからない。ただ、とにかく今は、矢吹くんが心配、っていうことしか頭にない。

とりあえず、まずは本人に会って、状況を把握して‥‥と、気持ちを落ち着かせていると、携帯が鳴った。

「もしもし、一ノ瀬くん?着いた?」

『‥‥先生、すみません‥‥莉王が逃げました』

「‥‥え、逃げたって、どういうこと?」

『泉先生のところに行くと話したら、余計なことをするなといって聞かなくて‥‥ちょっと目を離した隙に、うちからいなくなりました。おおかた、泉先生に弱ったところを見せたくないんでしょうが‥‥』

弱ったところを見せたがらないとか、目を離した隙にいなくなるって、矢吹くんは猫かなにかか!?‥‥と思いつつ、動揺する気持ちが抑えられない。

風邪で熱があって、体もしんどい状態のはずなのに、一体どこに行ってしまったのか。

『そんなに遠くへは行っていないと思うのですが‥‥見つけ次第、また連絡します』

「わかった、私もこれから探しに行く」

そう伝えて電話を切り、鍵と携帯だけ持って外へ出た。
一ノ瀬くんの家とうちは最寄り駅が同じで、そんなに離れていない。具合が悪いことを考えると、まだこの近辺にいるはずだ。


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