「ただいま」
少し気まずいままでそう言うと
「おかえり」
そう言ってくれる変わらない笑顔。
何度も何度も離れて、その度に帰ってくる私の変わらない居場所。
何度も肌を重ねた。
何度も抱きしめてもらった。
何度も何度もその胸で泣いた。
数えきれないほどその手を振りほどいた。
それでもいつだって私の帰る場所。

私たちは恋人じゃない。
セフレでもない。
「兄さん」と呼ぶその人は、ただ好きだと言ってくれる人。
私の存在を肯定してくれる人。
いつだって好きだって言ってくれる。
女としてじゃなくて、人として。
私の空洞を埋めるように優しく抱きしめて、私が望む痛みを与えて、私の気がすむまで私の身体を満たしてくれる。
手を繋いで、頭を撫でて、キスをして、好きだと笑って、私の痛みを取ってくれる。
そして、それ以上は踏み込まないでいてくれる。
付き合うとか私が嫌がる事は絶対にしてこない。
だから私は兄さんを兄さんとして愛せるんだ。
兄さんは何度も頭を撫でて、しがみつくようにして泣く私を落ち着くまで抱きしめてくれる。
落ち着いたら私にそっとキスをしてくれる。
左腕の袖に指を滑り込ませて、ガタガタの左腕を何度も何度も撫でて新しい傷が増えてないことを褒めてくれる。
そんな不明確。
曖昧なそんな関係。
それでいて、優しくて束縛のない関係。
だから何度も溺れる。
何度も何度も戻ってしまう。
「これから」なんて考えなくていい関係だから、「今だけ」見ていればいいから。
「今だけ」を見ていたらずっと同じ距離にいてくれるから。
そんな優しいだけの人。