この列車に乗って九時間程が経っただろうか。太陽が随分高くなってきている。

「よこはまー、よこはまー」
よしここだ。『エーちゃん』もここがロックの街だと言っていた。俺は飛び降りフラフラとホームを歩き右も左も分からず駅を出た。荷物をロッカーに入れギターだけを持って地下鉄へ降りた。

 ヨコハマ‥‥。

(何処へ行こうか?)
(何処でも行ける‥)

『伊勢佐木町』と云う駅名に覚えがあった。子供の頃預けられていた店のジュークボックスからその町のブルースがよく流れていたのを憶えていた。
(あそこに行ってみようか?)
切符を買おうとした俺はギターケースを持って券売機の前にいる一人の男を見つけた。俺よりは十歳くらい年上だろうか。
(よし声を掛けてみよう)
「すみません、伊勢佐木町はどうやって行けばいいですか?」
「一緒においで、俺もそこに行くから」
(やった、ついてる!)
車内で話しかけてみた。
「バンドの練習に行かれるんですか?」
「そうだよ」
「オレついて行っちゃいけないですか?バンドやりにさっき横浜へ出てきたんですよ」


「えっ?」
強引で押しが強く自分の目的の為なら相手の都合構わず要求する。
 俺は何処から来たか、何故来たかを簡潔に説明した。
「えっ、そんなに遠くから来たの?一人で?」
「そうです」
「宛てはあるの?」
「ありません」
「凄いねえ‥」

「今日はゲストがいるんだ‥」
と紹介され、俺は趣味でやっていると言うそのバンドにヴォーカル担当であっさり加えて貰えた。
「何処に泊まるんだい?」
「知り合いは本当に誰もいないのかい?」
「金は持っているのかい?」
何を訊かれてもその全てが俺自身の直面した大問題ばかりだ。面倒見の良さそうなバンドマン達は俺のことをとても心配してくれた。有り難い、が、甘える訳にはいかない。
「一週間後、同じ時間に又ここで会おう」
と言われ次のセッションが決まった。