『海鈴だって、あいつが嫌いでしょ……?』



今なら答えられる。



「……好きでも、嫌いでも、ないよ」



空っぽのロッカーの扉についた小さな鏡で身だしなみを整えたあと。


バタン。

扉を閉めた。




「何か言った?」


「えっ!?あ、いや、なんでもないです!」



忘れてた!わたし1人じゃなかった!

リンカさんが後ろにいたんだった!



キャバクラ内にある女性用のロッカールーム。


さすがにドレスのまま歩いて洋館に帰るのはいろいろ大変だろうからと、未來くんが制服を持ってきてくれていた。


ひつじくんは他の3人と一緒に男性用のロッカールームで着替えてる。



「ここを貸してくださってありがとうございます」


「いいのよ。あなたたちにはたくさん助けられたから」



璃汰がレッスンに戻ったあと、リンカさんは少し寂しそうだったけれど強い意志は変わらず持ち続けていた。



きっと大丈夫。

璃汰の苦しみは少しずつ消えていく。


数え切れない努力も涙も、これからひとつずつ報われる。


何の根拠もないのに、なぜかそう確信できた。




「本当にありがとうね。お客様から救ってくれて。……璃汰と話す機会をくれて、ありがとう」


「いえ、わたしがしたくてやったことですから」


「それから、ごめんなさい」


「え?」