「……遅い!」

怒りの滲む独り言に、通りすがりのカップルが二度見してきた
それほど美季の声は低く震えていた

全くなんだってこんな雪の日に!

どんよりした灰色の空は今の彼女の気持ちを如実に表していた
その空からは白く大きな牡丹雪があとからあとから降って来て、美季の体温を容赦なく奪っていく

「課長の奴、キャラメルマキアートだけじゃ済まさん!」

風邪でも引いたらどうしてくれるのだ!

美季はポケットのカイロを握りしめ、小刻みに足踏みをしながら、自分をこの寒空に残した上司に悪態をつく

土曜日の今日は、お昼過ぎまで惰眠を貪り日頃の睡眠不足を解消、もしくはストレス発散に友人と街へ繰り出しているはずだった

ましてや今日は美季の誕生日

残念ながら一緒に祝ってくれる彼氏はいない(ほっとけ!)
代わりに昨日、『プレ誕ね』と同僚兼親友の夕香里から行きつけのイタリアンへ誘われ、食事そのものは割り勘だったが、グラスワインを1杯おごってくれた

同じ仕事をしているから、互いの懐事情も同じようなものだ
このくらいがちょうどいい

「あ~今朝まではそこそこ幸せだったのに」