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 幸子がこの家に来てから1ヶ月余りが過ぎた。

 大型連休を利用して、家族旅行でイタリアへ行き、帰って来た日の夜の事。俺はもちろんノックなんてせず、いきなり幸子の部屋のドを開け、入るとすぐに後ろ手で閉めた。

 幸子は、ソファに寝転がってスマホをいじってたらしく、それを持ったまま驚いた顔を俺に向けた。ちぇっ、着替え中じゃなかったか。

 幸子は体を起こし、俺はその隣にドカッと腰を降ろした。幸子の、ショートパンツから伸びる真っ白な生足が艶めかしい。

「おまえ、スマホで何やってんだよ?」

 そう。俺は幸子がスマホで何をしてるのか気になってしょうがなかった。イタリアでも、幸子はちょくちょくスマホをいじっていた。”見せろ”と言いたかったが、ずっと母親がいたから出来なかったんだ。ホテルの部屋も幸子は母親と一緒だったし。

「何って、別に……」

 そう言いながら、幸子は慌ててスマホをロックした。怪しい。そんな事をされたら、余計見たくなる。

「貸せ」

 俺は素早く幸子の手からスマホを取り上げた。ピンクのカバーが付いた、少し型の古いiPhoneを。

「パスコードは?」

 幸子は首を横に振った。

「おまえに拒否権はない」

 俺がそう言うと、幸子は観念してスマホのパスコードを俺に告げた。それをスマホに打ち込むと、猫の壁紙と共に、”神徳直哉”の文字が俺の目に飛び込んできた。