「はい、それでは当日よろしくお願いします。

失礼致します」


今週土曜のイベントの担当者さんとの電話を終えると、私はカチャンと受話器を置いた。


「えっと、とりあえずこれで準備は整ったよね。

あとは当日現場で荷物が届くのを待って、それから……」


スケジュール帳にメモをしながら、ブツブツとひとり言を言っていたその時。


「菜穂先輩、確認をお願いします」


そう言って崎田君が、私のデスクに伝票を置いた。


「商品名も数量も間違いないわ。

これで発注しておいて」


「はい」


顔も見ないで伝票を返すと、崎田君はそのまま自分のデスクへと戻っていった。


「ちょっと、菜穂」


キャスター付きの椅子に乗ったまま、私の方に移動して来る同期のアキ。


「あんたと崎田君って、ケンカでもしてるの?

ここ数日、仕事以外で全然話さないじゃない。

何かあったの?」


「別に何もないよ。忙しいから、無駄話をしている暇がないだけ」


「ふぅん……。それならいいけど」


崎田君にキスをされて以来、彼とはまともに話をしていない。


別に自分が被害者だとは思わないけど。


あのキスは、気分の良いものではなかったから……。