朝陽の射しこむ部屋のベッド脇で、私はそっと感動のため息をもらした。


「天使のような寝顔って、こういうのを言うんだろうなぁ……」


ベッドに眠るのはこの部屋の主。

閉じられたまぶたの先を飾るのは、繊細なレースのような長いまつ毛。

すっと通った鼻筋は、男性にしては白くきめ細やかな肌に影を作っている。

うっすら開かれた唇は淡いピンクで、つい触れてみたくなるほどふっくらと柔らかそうだ。

切れ長の瞳が見えないせいか、眠る表情はあどけなく、普段の彼とは思えないほど可愛らしい。


「寝顔はこんなに可愛いのに」


小さくそうこぼし、静かに天使の寝顔に手を伸ばす。

いたずら心で白い頬をつつこうとしたのだけれど、突然布団の中から大きな手が現れ、手首をつかまれた。


「え……ひゃあ!?」


そして気づけばベッドの上。

憎らしいほど可愛い寝顔が、むにゃむにゃ言いながら私を抱きしめる。


「んー……マロ。もうちょっと寝かせてくれ……」


寝ぼけた声でそう言うと、天使の寝顔が近づいてきて、ちゅっと私の頬にキスをした。

ぎゅうっと私を抱えるようにして、再び深い眠りに入っていこうとする相手に、プチンと私の中で何かが切れる音がした。


「私はペットじゃなあーい!!」


そして今朝もまた、一ノ瀬家に平手打ちの音が響き渡るのだった。