それは新しい家族と
旅行に行った時のことだった。

四泊五日と割りと長い
旅行の最終日、
義弟(おとうと)になった
秋人とお土産屋さんに行き
あれこれと見ていた時、
自動ドアが開く音がして
何気なく振り向いたら
入って来たのが
年はとったが実父だと
直ぐにわかった。

「春兄さん?」

一瞬、固まってしまった僕は
秋人の声で硬直が溶けた。

『ごめんごめん、
お友達にあげる
お土産は決まったかい?』

施設に入れられただけで
暴力をふるわれたり
していたわけじゃないのに
“棄てられた”という思いが
心の奥にあるのと
施設に入れられた日以来
二十年以上会ってなかったのが
さっき硬直してしまった要因だ。

「うん♬.*゚」

土産屋を出ようとした時、
実父に気付かれた。

「春か?」

いくら棄てた息子とはいえ
顔は覚えていたらしい。

『久しぶりだね……』

恋人も変わってないみたいだ。

「兄さん、知り合い?」

秋人が僕のシャツの裾を
クイクイと引っ張りながら訊(き)いて来た。

『僕の“血の繋がった”父親だよ』

今は|蓮夏(れんげ)さんが父親だ。

優しくて、包容力があって
いつも心配してくれている。

「春!!」

秋人に電話を頼もうとした瞬間
蓮夏さんの呼ぶ声が聞こえた。

『蓮夏さん!?』

自分と同じくらいの身長がある僕を
思いっきり抱きしめてくれた。

「迎えに来たよ」

嬉しい。

僕は年甲斐もなく、此処が外だとかも
考えずに蓮夏さんの背中に
腕を回して抱きしめ返した。

『何で此処に?』

秋人と二人でお土産屋さんに
行くことは伝えてあったけど
実父が来たのは単なる偶然に過ぎない。

「勘かな(笑)

なんとなく、春のところに
行かなきゃいけないような気がしてさ」

本気なのか冗談なのかわからないけど
来てくれて嬉しい♬.*゚

『父さん、素直に寂しかったと
仰ればよいではないですか』

寂しかった?

後から来た冬也の言葉に首を傾げた。

『あなた達と一緒に行きたかったようですよ』

僕の仕草に気付いた冬也が教えてくれた。

「冬也、言うなよ」

子供みたいに頬を膨らませて
冬也に言っている蓮華さんに
僕は声を出して笑った。

「春、いい加減、
“父さん”と呼んでくれないか」

これは実父に対する牽制だろうか?

多分、雰囲気でわかったのかも知れないけど
蓮夏さんがいきなりそんなこといい出した。

『“お父さん”大好き』

僕がそう言うと蓮夏さんは
満足した表情(かお)をした。

『父さん、嬉しいのはわかりますが
その締まりのない表情(かお)を戻してください』

冬哉にはそう見えるみたいだ。

「父さん・冬哉兄さん、
春兄さんが吃驚してるよ」

秋人に言われて二人は
言い争い(って程じゃないけど)を止(や)めた。

『すみません、春』

これが“家族”なんだと思った。

『大丈夫だよ』

まだそこにいる実父を一瞬だけ見て
僕は続けてこう言った。

『父親とは言い争うなんてする以前に
ろくに話したことがなかったからね。

二人のやり取りが“普通”の家族の
在り方なんだと思ったんだ。』

楽しいことを共有したり、笑いあったり
悩みを相談したり、下らない言い争いをしたり
時は喧嘩したり……

そして、最後には許しあう。

それが、“普通”の家族の在り方。

僕はもう振り返らなかった。

『帰ろう』

その一言で理解してくれた三人は
頷(うなず)いてくれた。

僕の家族はこの三人だけだ。

四人で宿に帰るべく歩き出した。

実父は何が言いたそうだったが気付かないフリをした。