海の上で救助されてから二日後、明日香は再びシステインの領地に戻った。

「帰ってきたんだ」

 船から降りた明日香は、大地を踏みしめる。この港は前にも来たことがある。ジェイルと一緒に、鉄砲を探しにきた場所。初めてディケーターと出会った場所でもある。

「馬車を拾って、あの城へ行きましょう。国王陛下はあそこにいます」

 ディケーターが指さす方を見上げる。市場の向こう、遠い山の上にぽつんと城が建っているのが見えた。

 前に来たときも訪問した。あれは、このあたりをおさめる貴族の城。ジェイルはあそこを借りの住処にしているらしい。

「でも、馬車なんて……」

 周りを見ると、市場の様子がすっかり変わってしまっていることがわかる。店はほとんど営業しておらず、活気がなくなっている。

 やっと見つけた馬車は車だけで打ち捨てられており、馬も御者もいない。

 道端を歩いている人も少ない。戦争の影響だと思うと、明日香の心は重くなる。

(仕方がない。歩いてあの山を登るか)

 ディケーターに貸してもらったハロウィンの海賊コスプレのような男性用の服を着た明日香は、遠くにある城を見上げた。