明日香が異世界で軍師兼王妃となってから二カ月後。

「ご懐妊はまだですかねえ~」

 朝の着替えをしながらのほほんという侍女に、明日香は突っ込んだ。

「二カ月じゃまだわからないでしょ。情勢が今後どう変わっていくかわからないし」

 今は一応安定しているけど、またいつ戦が起きるかわからない。今この異世界は戦乱の中にある。

(軍師って、育休あるのかな。いや、ないよね)

 王妃としては一刻も早く世継ぎを生まなくてはならない明日香だが、妊娠、出産、子育て中に軍師として働けるのかどうか。

(職場に赤ちゃんを連れていくしかない?)

 おんぶ紐で赤ちゃんを背中に固定した軍師。想像するとマヌケすぎる。兵士の士気も下がりそうだ。

「お生まれになった御子は、乳母に預ければいいんですよ」

「あ、そうか。それならなんとかなるかな……赤ちゃんには可哀想だけど」

 どこの世界でも、女性の出産・育児と仕事の両立には課題が多いらしい。明日香は周囲のプレッシャーを感じ、授かってもいない子供のことに頭の大半を占められていた。

 心配していたより、ジェイルとの新婚生活はうまくいっている。彼は毎晩明日香を寝床でたっぷりと愛してくれる。政略結婚の多いこの世の中では珍しいくらい、ふたりの仲はよかった。