求人を探す私の目に"急募!""初心者歓迎!""正社員には社宅完備!"の文字はとても魅力的だった。

 場所は東京。高層ビルの一角のフロアに拠点を置く巨大総合商社で、名前は"フェニックス"。業務内容は今をトキメクIT関連。オペレーターや営業部が受けた顧客や法人に至るまでの依頼にホームページの作成やセキュリティ面の強化にいたるまでの業務だ。

 ちえりは"初心者歓迎!"という言葉を盾に、震える手で印刷ボタンを画面上でタッチする。

 早くも夢が叶うかもしれない! という浅はかな考えが口元を緩め、これ以上にない御馳走にゴクリと喉が鳴る。

……ガガガッ……ガーッ……という音と共に求人票を鷲掴みにした私は走り出した。

「皆さんのご迷惑になりますのでお静かに願います!」

 そう注意してきた受付の中年女性。
 襟元はピシャッと綺麗に糊付けされてアイロンがかけられていたが、カーディガンでごまかされた胸元にはだらしのない皺が見えた。

「ごめんなさ~い」

(みんな苦労してるんだな……)

 どんなにお堅い仕事をしていようとも、チラリと見えた皺ひとつでその人の人生が垣間見えるから憎めない。時間があれば、その苦悩のなんたるやをじっくり聞いてやりたいところだが……募集期間を過ぎて面接へたどり着けなかったら、それこそ自分が皺だらけのシャツを着て完全なる自宅警備員となってしまう。

(いつでも東京進出できるように仕事辞めてきたんだから、こんなとこで時間潰してらんねっ!!)

 とは言うものの、目をつけられて捕まりでもしたらヤバい……と、急ぐ足を和らげて番号札を抜き取る。

(きっと今を羽ばたく"フェニックス"なIT企業だし、若社長とかイケメン専務とか……!!)

 欲にまみれた涎を垂らしそうになりながらニヤニヤが止まらない。

 で……結局そんなの夢のまた夢だった。