一軒家を通り過ぎるとき、その前でたむろしていた女性三人組に呼び止められた。

「おはよう律歌ちゃん」「あら、北寺さんと自転車でお出かけ?」「仲良しね、いいわねぇ~」

 三十から四十代の彼女たちは、新しい話し相手を見つけたように口々に話しかけてくる。井戸端会議の真っ最中だったようだ。ここに来る前はみんな主婦だったらしく、うち二人は子供がいたらしい。

「おはようございます! 今日はちょっと遠くまで行ってみます」

「へえ、冒険ね。楽しみね☆」

 冷やかすようにウインクを投げられ、あはははと笑われた。律歌は大学も出て仕事もしていたが、彼女たちからしてみればまだまだ若い子供のようなものなのだろう。ご近所付き合いなんて演じ合うようなものだ、それならそれでわかりやすいし構わない。

「帰り道、見つけてきますよ!」

 律歌はそう言って胸を張った。

「おー! 頑張ってー」
「え~っ、私はー、帰りたくないかな」
 二児の母らしい彼女は即答でそう返してきた。
「あ・た・し・も~。あっはっは」
 隣の主婦もそう追随し、三人とも頷いた。

「そうなんですか?」
 律歌は尋ねる。

「だって、怖いじゃな~い。帰宅したら私、がっかりしちゃうかもしれないし」
「そうねー。ありうる~! ここってすっごく楽チンなのよ~」
「そうそ。今から帰ったとして、何か家族の役に立てるかしら?」
「ボタン一つで注文する以外、家事できなーい! むりー!」
「きゃあ、やだ~っ、考えるのこわーい、もうずっとここにいましょ~っ」
「そうしましょそうしましょ~、あははは」

 心から笑っているわけではないだろう。でも、おしゃべりの中で冗談にして笑い飛ばすしかない。その空虚さが伝わってきて、律歌はどうしていいのかわからなくなった。