「で、今日はどうするの? りっか」

 鮭の大きな骨を取り除きながら、北寺が律歌の方を見る。

「うん」

 律歌は箸を置いた。

「とにかく、行けるところまで行ってみたいの。ここはどこなのか、それを知りたいわ。だからまっすぐ行きたい。行って戻ってくるだけでも何か変わる気がする。できれば、こことは違う面から場所を確かめたい。まあ、どっちに行ったらいいのかさえわからないけど……でもとにかく歩きださなきゃ何も始まらないでしょう」
「ふむ」

 もぐもぐと咀嚼しながら、北寺は宙を見上げて何事かを考えている。

「じゃあ北に向かおう」

「北ね!」

 律歌は北寺を見つめた。
「いいけど、どうして?」

「そりゃあ、おれが北寺だからねっ!」

 小首を傾げてウインクを寄越される。

「なーんだ。ま、別にいいけど」

 律歌はため息をついて、食事を再開。口の中でイクラをぷちっと潰す。

「うそうそ。ちゃんと理由はあるよ」

 北寺はそう言うと、両手で一度丸い輪っかを作って、頂点を示す。

「ここが地球なら、北には北極点があって、そこを目指していると思えばまっすぐ歩くためのゆるぎない目印になるし、それにもうすぐ朝日が昇るでしょう。一日かけて歩くなら、一日中、景色が見やすい方がいい。日を背後にし続ければ、方角もわかりやすいしね」
「ふーん!」

 律歌は思わず立ち上がった。

「じゃあ北ね!」