普段は人里になど絶対下りることはなかった。

孤独を好み、ひとつ場所に留まらず流れるままに各地を渡り歩いて生きてきたのは――生まれ持った力が誰かを狂わせてしまうかもしれないからだ。

けれど、その力はまだ発揮されたことがない。

何者とも接触せずそうやって生きてきたから。


「あれは…?」


山野を移動しながらいつものようにあてもなく旅をしていた時――その女に出会った。

それは日々食うものにも困るような小さな村だった。

着ている着物も汚れていてみすぼらしく、そんな中でもひときわみすぼらしい身なりをしている若い女が目に留まった。

普段なら気にもならないが――どういうわけか気になり、時間もあることだしと観察することにした。


女が手にしている籠には野菜とは到底呼べないような切れ端が数枚。

それを食べるのかと思うとなんとなく哀れになり、本来は憐れみなど感じることはないのだが、山で見つけた山菜をこれまた家とは到底呼べないあばら家の前に置いた。

女の住んでいるあばら家は村の中でも一番端にあり、誰もこの女を訪れる者は居ない。

どうやら村八分にされているらしく、何故そのようなことをされているのか気になり、少し離れた山林から様子を窺うことにした。


「これは…誰が…?」


女が外に出た時――家の前に置いておいた山菜に気付き、辺りを見渡したものの誰も居ない。

最初は警戒していたものの、感謝するようにぺこりと頭を下げた女は家の中へ消えていき、屋根から湯気が上り、きっとこれからあの山菜を食べるのだろうと分かった。


みすぼらしい身なりをしているが、若くて顔立ちは整っている。

姿を現すつもりはないけれど、暇を持て余すには十分な存在だと感じた。

それが互いの運命を狂わすと知らずに、歯車は動き出した。