帝が座す平安町と幽玄町を隔てて存在する幽玄町のある都には遥か昔から結界が張られてあり、これを悪意ある者が乗り越えたならばすぐに分かるようになっている。

よって一歩ここを出た瞬間からいつ敵に襲われてもおかしくなくなるため、朔は側近の銀と力ある百鬼を選りすぐって発つことにした。


「父様、屋敷の守りをお願いします」


「分かっている。…気を付けて行け」


朧はもう長時間歩くことができなくなっていたため、羽織に包んで抱きかかえた氷雨は、朧を先に朧車に乗せ、揺り籠に寝かせた望もそれごと乗せて朧の頬を撫でた。


「俺は外で警戒するからきつかったら中に横になってろよ」


「はい…氷雨さん、気を付けて」


「任せとけ」


ふわりと宙に舞うと、手を振る息吹に手を振り返して北を目指して先を急いだ。

どこかへ寄ると危険が増すため、次に地上へ下りる時は天満が住む鬼陸奥になる。

同じく過保護で心配性の天満も気を揉んでいるだろうと思うと早く会わせてやりたくなって速度を上げると、朔に止められた。


「いくら朧車に乗っているとはいえあまり速すぎると朧の身体に響く。それより辺りによく注意しろ。…おかしな気配がするぞ」


――朔の低い声に、気が逸っていた氷雨は同じくどこか警戒している風のある銀のふかふかの耳がぴくぴく動いているのを見た。


「そういえば…」


気付かれない程度に速度を緩めると、姿は見えないもののじっとこちらを監視しているような視線を地上から感じた。

朔と共に目配せをして意思の疎通を図り、さりげなく朧車の御簾を上げて中へ乗り込み、寝ている望を注視した。


「氷雨さん?」


「あーいや、ちょっと疲れたから乗せてもらおうと思って。昨日頑張りすぎたからさ」


「!や、やだもうっ!」


ぽふっと胸を叩かれて笑ったものの――気は緩めず、外の妙な気配に意識を集中した。