2話




 葵音は、東洋の魔女のようだと思った。
 それは、恐怖があったわけではない。妖艶という言葉がピッタリ合うような美しさをもつ女性だったからだ。それに、彼女が紺色のレースのワンピースが魔女を連想させたのかもしれない。

 ただ彼女に見つめられているだけで、緊張から体が固まってしまう。そして、ずっと吸い込まれそうな黒の瞳を見つめてしまうのだ。

 交差点の信号が変わり、止まっていた人々が動き始める。動かない葵音と女を怪訝な顔で見たり、彼女の美しさに目を止める人が多かった。

 葵音は自分が彼女に、見惚れてしまっていた事に気づき、ハッとした。

 そして、彼女が言っていた「星はありますか?」という言葉の意味をようやく考えようとした。

 だが、返事がないことを心配したのか、彼女が葵音の顔を覗き込んできた。
 

 「あの……?」
 「あぁ、ごめん。ここだと邪魔になるから場所移動しようか。」


 葵音は彼女の腕を掴んで、歩道の端へと移動した。
 そして、再度彼女の方を見ると、頬を真っ赤に染めながら、葵音が掴んでいた白くて細い自分の腕を見つめていた。

 彼女が自分に触れられている事でそうなっているのだと気づき、葵音は慌てて手を離して「ごめん。」と言いながら1歩後ろに下がる。気まずい雰囲気が流れる。
 けれど、葵音はどうしても聞きたい事があった。
 
 彼女に腕を掴まれた時は、ただのナンパかと思った。けれど、それがコーヒーショップに居座る不思議な女だった事と、葵音が手を掴んだだけで真っ赤になった事を見て、それは違うと感じたのだ。
 
 では、なんで葵音の腕を掴んだのか。
 探していたの、葵音だったのか?
 そして、言葉の意味は……?
 
 彼女には聞きたいことが山積みだった。