何にもない僕は、美しくなりたい。

美しさには価値がある。 僕は美しいものが好きだ。美は、誰もみんなが欲しがる愛するものだ。

なぜ僕はこんな顔をしているんだろう。少し太ってしまったのもあるけれど、じゃがいもみたいな輪郭。大きさの非対称な目に忌まわしいまでに醜い鼻先。唇は薄すぎて表情に彩りがない。

春休みから日焼け止めを塗るようになった。筋骨隆々の浅黒い肌っていうのも素敵かもしれないけれど、僕は僕の好きな美しいに近づきたいから。繊細な美貌が欲しい。とにかく僕の美しさへの執着はどんどん増していくばかりだった。

みやびさんに出会ったのはそんな時だった。

新学期のクラス替え、隣の席。僕の理想の美貌を持つ女の子がそこにはいたんだ。

細い体同様の小さな卵型の顔。左右がぴったり対称ぎみの、大きな二重の瞳。伏し目になると長い睫毛がゆらゆら揺れた。小さな形の良い唇はぷっくりとしていて触ったらどんな感触なんだろうって思った。何より美しいのは鼻!すっと伸びた鼻筋は高く先は細くて小鼻もバランスよく整っている。惚れ惚れした。妖精とかお人形というべきか、女の子だからどこかの国のお姫様みたいな印象の顔立ちだった。

ただその全てをぶち壊すのが彼女の格好だった。漫画みたいな分厚い眼鏡。野暮ったく切られて、ちょっと長すぎる斜めに分けられた前髪。しかも今の女子高生でいるのかってくらい低く1本に結ばれた髪。美しい顔の印象全てをぶち壊す恐ろしい格好だった。ああ、何とかして教えたい。君はかわいいんだよって。突然容姿のことを言うのもおかしいから、どうやって彼女に近づこうか僕は悩み始めた。