お父さんは営業が下手くそな人の良すぎるサラリーマン。


昔から、うちが裕福な家庭じゃないってことは子どもながらに分かっていたけれど


友達が持っているものって、不思議とどうしても欲しくなるもので……。


アレが欲しい!コレが欲しい!と、弟と2人で散々困らせて来た自覚がある。


そのたびに、困ったように笑うお父さんの顔を思い出しながら、その苦労を思うと目尻にジワリと涙が浮かぶ。



お金を稼ぐのがどれだけ大変なのか……、それは高校生になってバイトをして初めて分かったことで。


今まで好き放題だった自分を呪ってやりたくなった。



お母さんは近所のスーパーでパートをしていて、『家にいるより、働きに出てた方が若くいられるから』なんて笑っているけれど、


本当は家計を助けるためだってことくらい、バカな私だって分かってるんだ。



どんなに家計に余裕がなくたって、誕生日やクリスマスには必ずケーキを焼いて、美味しいご飯を作ってくれるお母さんと、絶対に定時退勤で帰ってきてくれるお父さん。


そんな2人の娘に産まれて素直に幸せだなって思うから。




「本日は、我が西園寺家の長男、葵羽(あおば)の婚約披露パーティにお集まりいただき、誠にありがとうございます」




───だからこれが、私から両親へのせめてもの恩返しになればいい。