本当は後ろから抱きしめたかった。



俺の知らないところでお前はいつも誰かに取られそうになってる……
気付けよ……お前狙われてんだよ。
俺以外にそんな顔すんな。
俺だけ見てればいいんだよ。



この前のレンタル彼女……
頭がどうにかなりそうだった。
前に引き受けたクライアントだからって、あんな事までするのかよ。
楽しそうに密着して…手まで繋ぎやがって……



アイツ………あんなふうに笑うんだな。
見た事ない笑顔だった。
いくら演技だとはいえなかなか頭から離れないんだ……



俺の前でも……演技してんだよな?
専属秘書という顔で俺と接してる。
いつも完璧であまり笑わない。
勝ち負けで笑ったり、常にポーカーフェイスだ。
秘書である以上仕方ない事だが……俺は今みたいに困惑させたりしか出来てない。



誰かと親しそうにしていたりするだけでどうしようもなく怒りが込み上げて爆発してしまう。
こんなの初めてだ。
俺は……こんなに独占欲の塊だったのか?
手に入れたい一心で……空回りしてる。



泣くなよ、ちくしょう………



泣かす為に言ったんじゃない。
困らせる為にしてるんじゃない。
口から勝手に言葉が滑り落ちる。
歯止めが効かなくて…一番見たくない涙を見た。



受け止めきれず背を向かせた。
今更後悔しても遅いのに……
謝ったところで傷付けた事に変わりない。
俺が悪い。
一番好きな相手を笑顔にする事も出来ない無力さ。



頭を預け、必死に怒りを鎮めた。
少しでも触れているだけで、不思議と落ち着いていく。
抱きしめたい衝動に駆られながら、抑える為にポケットに手を入れた。



少しだけこのままで居てもいいか…?



受け入れてくれたって事は……嫌われてないって思っていいのか?
それとも……今は俺に逆らえないだけ?
代行秘書を全うしてるだけなのか…?



小さく華奢なその背中に聞いても答えはわからない。
ただひたすら……俺が良いと言うまでずっと肩を貸してくれてたな。
お前のその優しさが、俺を暴走させるってわかってくれよ………