デスクの内線が鳴ったのは、それから二週間ほどたった、ある日の昼下がりのこと。

「はい、奥谷です」と受話器を耳に当てる。

『お久しぶりです、七村です』

「あ、どうも」
意外さに間の抜けた声が出る。言いながら、何の用だろうという疑問が頭を渦巻く。

『先日はありがとうございました』

「いえ、そんな」

『お礼といってはなんですが、奥谷さんを食事にお誘いしたくて』

初めて電話ごしに聞く圭介の声は、懐かしいような見知らぬ人のような不思議な響きで耳に届く。

『僕の行きつけの店なんです。あ、アットホームな雰囲気の気取らないところですよ』