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嫌われ王子を好きな理由 〜それでも私は、あなたが好き〜

たとえ嫌われ者でも



◇◇◇◇◇


麗らかな春の日差しが降り注ぐ中、深緑色のブレザーに身を包んだ私は、和歌月(わかつき)高校の校舎を見上げていた。


辺りの木々から舞い落ちる桜の花びらが、小さな蝶のようにひらひらと舞っている。


ここに、佐久間(さくま)優(ゆう)がいる。


会話も交わしたことのない初恋の人を想い続けて約五年。


とある有名な天才ピアニストと、存在すら知られていないただのファンが、恋愛に発展することなんてまずありえない。


そんなことくらい、わかっていたつもりだった。だけど諦めようとすればするほど、彼に対する気持ちは強まっていく一方。


そこでひとつ、自分の中で賭けをした。


佐久間優が通う私立高校を受験して、合格することができなかったら、そのときに彼のことをきっぱり諦めると。


結果、恋の女神は私の味方をした──。


彼と同じ学校に通えるだけで死ぬほど嬉しいのに、配られたクラス名簿の中に『佐久間優』の名前を見つけたときは、もう天にも昇る気持ちだった。


さぁ、行こう。


歩き出した瞬間、背後から一陣の風が吹き抜けた。


大好きな彼の目に少しでも女の子らしく映るようにと、胸の辺りまで伸ばした黒い髪が、さらさらとなびく。


一年半ほど前、ピアノ業界から忽然と姿を消してしまった私の初恋の人に、今日、ここで、ふたたび会えることに心を躍らせながら、私は煌びやかな校門をくぐった。


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