「勇人ー、事務所がそろそろ今度の新曲のPVどうするか決めろって言ってるけど、何か考えてる?」

「ああ……もうそんな時期か」

Kaiser専用の音楽スタジオのとある一室。
ソファーに座り楽譜を眺めていた勇人は、後ろで背もたれに腕を乗せていた拓也が持っていた一枚の紙を顔の前でちらつかせてきたのでそれに目を向けた。

「俺も少し考えてきたんだけど、こんなのどう?」

○とにかく派手に
○夏を先取って海でロケ
○女の子達と一緒にバケーションっぽく!(可愛い子希望!)

「却下」

「ひどっ!!チラッとしか見てねぇじゃん!!」

紙に書かれている派手にというフレーズを見た瞬間に即座に却下した勇人は、拓也の持っていた紙を受け取ると目の前のテーブルに無造作に置いた。

今回の曲のPVに派手さはいらないし、海のイメージでもない。
大体、バケーションっぽくって何だと思いながら勇人は拓也に視線を向けた。

「大方、海で派手に遊びたいだけだろう?」

「あ、バレた?」

もちろん、女の子達と一緒にね。と語尾にハートでもつけそうな言い方でウィンクまでする拓也に勇人は呆れて溜め息をついた。

「でも真面目な話、今回の曲はやっぱ俺達だけじゃなくて誰かいた方がいいと思うんだよね。
女の子がいて、華があるPVにしたい」

「お前が言うと不純な動機にしか聞こえないが……今回に関しては一理ある」

PVには二人だけで出る時もあれば、その曲のイメージにあった人にオファーを出して出演してもらうこともある。
今回の曲のイメージは後方で、勇人も華がほしいとは思っていた。

そして、勇人の頭にふと浮かんだ人物は……。

「秋村陽菜……」

「え?」

「秋村陽菜に出てもらう」

「え、陽菜ちゃん……?」

勇人は自然とその名を口にして、話は終わったとばかりに再び楽譜に目を通し始める。
拓也は拓也で全く動くことが出来ずに、勇人から出た特定の人物の名前に驚いたように暫く目を見開いていた。