週明け、俺は晴れ晴れとした気分で出勤した。
翠がまとめてくれた調査報告は、手直しなしで局長に渡せるくらいのものだ。これで鬼澤正作の件は一段落に違いない。大きな仕事を新人ふたりが片付けたのは、ひとつの成果と言えるだろう。

そして俺の心が軽いのはもうひとつ。翠との関係を普段通りに戻せたということだ。つまりは“仲直り”の状態に持っていけたのだ。

主計局の風間さんとは何でもないということを説明できたし、俺にその意志がないことも伝えた。そして、翠とラーメンを食べて帰ったのだ。俺の記憶では、仕事や学校以外で、翠を誘って食事するというのは初めてのことだった。
弁解するなら、俺は雰囲気のいいバルにでも誘おうかと思った。相手は一応婚約者なのだし、妙なところに連れて行って扱いが雑だと思われたくない。ところが、ラーメンを希望したのは翠の方だった。胃袋はがっつり男飯でキメたかったので、これは意見の一致。

ラーメンをすする翠は満面の笑みだった。にんにくを山ほど入れ、替え玉までしているのだから、よほど気に入ったのだろう。美味しい美味しいと言われれば、連れてきた俺としてはまんざらでもない。

『いいお店知っちゃった。豪、ありがとう』

額と唇を油でてかてかさせた顔は、男には見られたくない顔だろう。しかし、翠はそのあたりをまったく頓着しない女で、さらにはそんなてかてか顔すら愛らしいのだ。まったく顔がいいのは、本当にずるい。