私の職場である財務省特務局は表には出てこない部署だ。

業務内容は各省庁の金の流れの調査監督。要は大臣や官僚たちが私腹を肥やしていないか見張っている。戦前からある組織で、総理大臣から調査権限も与えられているのだからすごいことだ。

仕事の特殊性から存在自体が極秘、表向きは主計局の一部署とされている。なにしろ、行政機関内に見張り屋がいるなんて、悪いことを平気でしている連中に教えるわけにはいかないじゃない。

構成メンバーも独特だ。半数は民間から金融のスペシャリストや、調査のスペシャリストを登用している。そしてもう半数は斎賀の一族が占めている。

斎賀は明治政府設立の立役者である斎賀剛三の一族であり、歴史の表舞台には出てこないものの、内閣、行政機関に絶大な影響力を持っている。ゆえに、斎賀の人間は古くから政府資金の流れを見張る役目を請け負ってきた。この国の金融を裏でつかさどってきたのが斎賀と言える。
現在の特務局局長は斎賀猛(たけし)。斎賀本家の人間で、豪の伯父さんにあたる人だ。

「朝比奈(あさひな)、先日の件、頑張ったな」

局長自らの言葉に私は思わずにんまり微笑んでしまった。
先日の件とは、とある大臣の調査業務だ。不自然な資金の流れがあるという情報があり、先輩方とチームを組んで調査していたのだ。