10話「感じ合う口付けをあなたに」




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 千春は今日も自宅で缶詰め状態だった。 

 朝は家事をこなし、秋文を見送り、その後は部屋に籠って仕事をひたすらこなしていた。

 千春は駿に指摘された言葉がずっと頭に残っていた。
 確かに結婚をしてから、仕事を減らしていたのは甘えなのかもしれないと考えるようになっていた。
 結婚しても、独身と変わらず仕事をしている人は多いし、子育てと両立している女性もいる。もちろん、千春のように時間を短くした人もいた。
 人それぞれだとわかっている。


 それなのに、駿の言葉が胸に刺さったまま抜けずに、千春を苦しめていた。
 もしかしたら、結婚した事で浮かれていたのかもしれない。秋文との時間を多くとりたい理由に、すぎなかったのかもしれない。
 自分でも気づかないうちに、楽な方へ逃げていた。
 そう思えば思うほど、千春は悲しくなってしまう。

 駿は、千春の仕事に関しては認めてくれていたようだった。
 仕事の取引相手の意見としては嬉しい言葉だった。
 それなのに、自分は甘えてばかりだったのだ。
 もっと、しっかりと仕事をしなければ。他の人達に「秋文と結婚したから、楽してるんだ。」とは、思われたくなかったし、認められているならば、しっかりと仕事をこなしたかった。



 それから、上司である千葉から多めに仕事を貰うようにしたのだ。
 千葉は心配していたけれど、千春は無理を言って「今までと同じ量の仕事をください。」と頭を下げた。
 すると、千葉は困った顔を見せながら、「無理だったらちゃんと言ってください。また、倒れられたら私も旦那さんも心配するのですから。」と、言われてしまった。
 
 倒れている時間さえもないのだから、「大丈夫です。」と答え、千葉にお礼を言って仕事を貰える事になったのだった。