「洸大、帰ったぞ」


明るい声で電話が入ったのは、中学時代の同級生、望月葵と湯葉料理を食べに行き、彼女に強引なキスをしてしまった後のことだ。


葵は俺の唇が離れると、はぁ…と吐息を漏らし、ぼうっとしたままこっちを見つめて、その潤んだ瞳に満足した俺は、「ごめん。嫉妬した」と囁いて彼女を解放した。



「叔父さん」

「なんだ」


もう少し余韻に浸らせろ…と、嫌味を言ってやりたいところだが。


「予定よりも早いだろ」


本来なら一週間後に帰国の予定だったじゃないか。


「ああ、実はな、旅先でテロがあって、ガイドがこの先の予定も危ういから帰国された方がいいんじゃないでしょうか?と言いだしてな。家内も怖がるし、その方が身の為かと思って帰ってきたんだ」

「だから、パリに行くのは止した方がいいと最初から」


この最近、何かと不穏なニュースばかりが流れてたから…と言いたくなるが。


「まあいいじゃないか。お前も自分の担当患者が心配だと言ってただろ」


四週間の出向予定が三週間に変わるだけだ。勤め先にしても、お前が早く復帰した方が助かるんじゃないのか?…と言ってくる。