「葵ちゃん？」


声をかけられたのはシトロエンから降りて、ドアを閉めようと取っ手に指を引っ掛けた時だ。


（マズい、知り合い！？）


こんな場所で出会って…と振り返れば、懐かしい顔が微笑んでる。


「あっ……朝川先生！」


ベージュのビジネスコートにグレーのスーツ姿。
ブルーのネクタイには黄色と紺のストライプが斜めに入り、いかにも清潔そうで好感度高めな感じで佇んでる人は、私の声を聞くと更に口角を上げた。


「どうも、お久し振りです」


チョコンと頭を下げると相手は嬉しそうに近付いてくる。
私はその瞬間にヤバい…と感じ、慌ててドアを閉めてから車を離れようとした。

でも、それに気づいたらしい彼までが運転席から降りてきて、一瞬気まずい沈黙が流れた。



「……彼氏？」


最初に口火を切ったのは朝川先生。
実はこの人、さっき今泉君に話した近所のお兄さんで幼馴染の関係だ。


「いえ、あの」

「今晩は。今泉洸大と言います」


私の横に来るとスマートに挨拶して頭を下げる今泉君。
朝川先生は彼にも「今晩は」と気さくな返事をして、ニヤニヤしながら「ヘェ〜」とこっちを窺う。