歩いて何も考えず、着いた先は……






屋上だった。






風が優しくて少しヒンヤリしていて、すごく気持ちいい。
ずっとここにいたい…なんて思ってしまう。
病室にいるとどうも気分が良くならない。たまには、外に出なくちゃ…ね。





なんて考えながら、じりじりと歩いてきたのは屋上のフェンス沿い。







部屋から見る街よりも、ここからはとても見晴らしが良くて全てのものを見下ろしてる感がたまらなくいい。






はぁ……いっそのことこの気持ちのまま、消えてしまいたい……。






と目を瞑る。






再び開けると、涙で前が滲んでいた。







自分を落ち着かせようと、ゆっくり深呼吸をする…。







消えてしまいたい……。






そんなことを思った時、






ドクン






と胸が大きくなった。






そして胸に手をやる。






そうだった。君のためにも生き続けなくちゃならない。






「……ごめんね。」






そう言いながら胸を優しく撫でながら、振り返り屋上の扉に向かう。






「あ……」





広い屋上の先には、数人の白衣やナース服を着た人たちが勢いよく出てきたことが分かった。







そして一人ズンズンとこちらに向かって歩いてくる……







「こ、幸治さん……?」






屋上の出入口から私のいるところまでは、かなり距離がある。走ってる訳でもないのに、ものすごい勢いで迫ってくる幸治さんに圧倒されて、動けないままでいた。







あっという間に目の前にきた幸治さんは、ここ最近では見せないくらいの剣幕。






あ……ヤバイな、これは。






と思った瞬間っ……






ビタンっ!







イッターーーーーー!!!!!!!







「………………つぅ。」








思い切り叩かれた左頬が痛い……。






身長180センチを超える長身で、筋肉ガッチリ鍛え上げられたその右腕で……手加減なしのビンタ……。





痛すぎる……。
顔というより、顔面、というより頭部、耳の奥底までジンジンする痛み。





一瞬、何も聞こえなくなった気がした。






何も言わず、突然叩く幸治さんの言わんとすることは分かってる……。






目の前にいるけど、恐ろしすぎて顔を見れない。







『……バカモンが。





呆れて物も言えん……。』






そう言うと私を置いて去って行った。







私はしばらく放心状態と、頬から伝わる耳奥の痛みで動けないでいた。








すぐに屋上に来ていた看護師さんに車椅子に乗せられる。







何も言葉を発せないでただ、されるがままになる。







今見た幸治さんの表情、姿「思い出すと、次第に、数日前に高熱で目覚めた時にいた幸治さんは、別人だったかのようにも思えてきた。







部屋を出た私も悪いけど……こんなことしなくてもいいのに……。





と心の中で幸治さんに当たってみたけど、なぜ叩かれたのかよりも……







顔が痛い……。