その日は比較的何もなく、医局にある過去のオペが録画されたディスクをパソコンに入れて早送りで見て終わった。





そんな日だから早く帰ることもできた。






病院を後にする時、お昼ご飯の揚げ物が胃に残っていたのか、ムカムカしていた。





夜は控えめな物が食べたい…。






そんなことを思いながら歩いていると、後ろから声がする。





『乗ってけよー。』





後ろを振り返るとスポーツカーが低速で走って来て、歩道沿いに止まった。





ん?誰?





車を覗き込むとそこには椎名先生がいた。




『俺も帰るところだから、乗ってけ。』




断る余地もなく、助手席が開く。





「い、いいんですか?」




一応遠慮気味に。




『あぁ。俺も同じ方向に帰るし。』






そう言われて開いた助手席に乗り込む。





「お願いします…」





普段見慣れた白衣ではなく、スーツ姿の椎名先生に、診察される時よりも胸の高鳴りが激しい。





イケメンのその姿に抱く恋心ではなく、ただただ、綺麗にされたスポーツカーに乗らされ、下手に動いて汚してはいけないという思いと、病院ではあんなに言葉数の多い椎名先生が一言も喋らず運転してるその姿に……妙に緊張してしまう。






マンションの場所は分かるような口ぶりだったし…道を説明しなくてもいいんだろうけど。




何か話した方がいいのか…。





それかマンションのロータリーに着いたら、無駄に時間を取らないでさっと降りてお礼を言って頭を下げて…






なんて頭をフル回転にして考えていると、





『着いたぞ。』





そう言われて周りを見ると、マンションの近くのコインパーキングに車は止まっていた。





え?





「あ、あの。ロータリー、ありますよ。」






わざわざコインパーキングに止めなくても…






『あぁ、言ってなかったな。
今日、お邪魔させてもらうから。』





えっ!?えっ!?







エーーーーーーーーーーーー!






「そ、そうなんですか。」





つい動揺してしまう。





幸治さんから連絡なかったような…





チラッと携帯を見ると、なんとなく画面にメール受信の表示が。





たぶん、時間的に幸治さん。





『俺も幸治も明日休みだから、今日泊めさせてもらうことになったから。』





へ?





『明日朝、診察してから仕事行けよ。』





エーーーーーーーーーーーーーーー!?







もう頭は!?しかない。







さっさと車を降りていく椎名先生の後ろに遅れないように慌ててついていく。
誰の家なのか全く分からない。