そして研修始まって2回目の吸入…。





の前に、吸入前の聴診、ということで私たち二人しかいないこの部屋で聴診を受ける。
もちろん相手は椎名先生。





にしても予想通り長い……。
昨日よりも長い聴診に時間を気にしながら早く終わることを願っている。





何度かチラッチラッとこちらを見てくる先生。なんか気になることでもあるのか…





と思っていると、掛けていた聴診器を外しようやく終わった。






『ふぅ。』






「ありがとうございました。」





一応お礼を言う。





『なぜだか昨日より騒がしいけどな。』





へ?





部屋の中は静かだし、廊下からは何も聞こえない。私には。





『ここだよ。』





と、私の胸に向かって指をさす。





「あ……はは。」






そういうことですか。
それは、だって……





「す、すいません。来るときに階段で来てしまって。」






と控えめに言ってみると、ギロッとこちらを睨まれる……。





ぎゃ、怖い……こういう系……。






『階段で来たくらいで息も上がって、こんなに雑音がすごいなんて……驚いた。これで研修をやり通せるのか、不安だな。』





嫌味なのかと思うけど、真面目な顔からして、ホントに心配してるみたい。





『とりあえず吸入しとこ。』






その強引な進め方に、半ば慣れつつある。体が素直に従って、吸入機の前に進んでいた。





『終わったら聴診するから。』






心の準備もないうちに機械のスイッチが入って、そして今日も……。


















散々な結果となった。




私にはいつもの事だけど。











その数時間後……。





オペが終わった私は岡本先生に呼び出され、医局の隣の相談室に向かった。




ここに来ても相談室は私を引きつける何かがあるのか…。





『ごめんね、オペ終わったばかりなのに。』




相談室に向かい合わせに置かれた二つの椅子のうち、一つに脚を組んで座っている岡本先生は、私に座るよう促す。






「いえ……。」





結構ハードで、午後3時になるのに未だに食事も摂れてない。
極度の緊張で、お腹は空いていないけど。




『えーと。




率直に言うね。』




私の目を見つめる岡本先生。
こうされるとどこを見ていいのか分からない。





『昨日と今日、椎名先生が診察した結果、今後の研修に参加することは、少し不安な気がするんだ。』





「え……。」






昨日も今日も散々な結果だったけど、いつもと変わらない吸入だと思っていたので、岡本先生の言葉に耳を疑った。






『いつもあんな感じなのかな?』






「はい…むしろ、そんなに悪くないような。」





と言ってしまった時、一瞬目を見開いた岡本先生をそれ以上驚かしてはいけないと思い、口を噤んだ。





『そうか…椎名先生が第一の進藤先生と君の旦那さんに連絡して、夜までには今後をどうするか検討してくれるみたいだけど……





君としてはどう?』






あ……






私の意見を……聞いてくれた。





「はい。ここまで来たので、最後までやりたいと思ってます。」






最初は第一での外科研修でさえも断ろうと思っていたけど、万全な体調でなくても乗り切ることができたことは、私の自信になっていた。





第二での研修の環境は、素晴らしいもので、今後小児外科医になれなくても、医者を続けていく上でとても役に立つとも思っている。





それに今まで、たくさんの周りのサポートもあった。それを無駄にしたくない。






『そうか。君がそのつもりなら、僕からも椎名先生には伝えておくよ。』







「はい。よろしくお願いします。」






そう頭を下げて、その場を去ろうとすると……。





ガシっと腕を掴まれた。






『あのさ、僕は主治医でもないし、無理にとは言わないんだけど、』






何だろうか……。





『服の上からで充分だから、聴診させてもらえないかな?
ここでの研修の担当者として、君の喘鳴がどのくらいなのかも。』







あまりいろんな人に自分の体のことを知られたくないのは山々だけど……





しょうがない……こればかりは。
相手はあくまでも医者だから、逆に断るのも……。
それに、ちゃんと私の意思を確認してくれる素敵な先生。これくらい応えないと。





「いいですよ。」






そう言って、椅子に座りなおす。





『悪いね。』





そう言って、ポケットの中の聴診器を首にかける岡本先生は、さっきまでの穏やかさはなく、真剣な眼差しで私の胸元を聴診し始めた。





岡本先生も長い……。
たぶん、肺も心臓も聞いてると思うけど。




聴診を終えて聴診器を外すと、





ふぅ






とため息をついた岡本先生の口が開いた。







『うん……これはたしかに。椎名先生の言うとおり、不安。研修中に倒れたりしたら周りに迷惑かけることもある。』







そうだった岡本先生は、はっきりと物事を言う人だった。






『それに大事な第一の未来のエースに何かあったらと思うと……』






手を額に当て、さっきの言葉を撤回するのではないかと思うくらい考えている。





「いえ!やらせてください。私は大丈夫ですから。研修も長い期間ではありませんから。」






そう言って頭を下げる。







『うん。わかった。君がそこまでいうなら、やってみなよ。






だけど、毎日の吸入や薬を飲むことは必ずするんだよ。それに、何かあったら必ず言うこと。






分かったかな?』





「はいっ!」






と即答した。