「優ちゃん。学校生活にはもう慣れた?」

凛が自転車の後ろから僕の顔を覗くように身を乗り出した。

「とりあえずね。」

僕は適当に返す。


「友達はできた?」

棒アイスをシャキッとかじると、凛は後ろで自転車の上に立ち出す。

「なんでそんな人事なの。凛もクラス同じじゃん。」

僕は凛の顔を少しだけ見る。
夕日に反射した凛は少しだけ寂しげに見える。

「そーなんだけどさあ。なんとなくだよ、なんとなく!」

そう言って僕の頬にアイスをつけてくる凛。

「冷た!ていうかまだアイスって季節じゃないでしょ。」

向かい風はまだ冷たく、5月だと言うことを語りかけてくる。
それにまだ5時なのに、空はもう暗くなり始めている。

「おいしいからいいんだよー!!」

そう言って凛はまたアイスをかじる。

「凛はどうなの?瀬谷さんだっけ。あのいつもよく一緒にいる人。」

待ってました、と言わんばかりににやっと笑い出す凛。

「涼花でしょ!涼花はね、すごくいい子なの!今一番仲いいよ!」

あまりに熱心に身振りまで付け出すもんだから、僕の背中にポタポタとアイスがこぼれ落ちた。

「凛、たれてるよアイス。」

僕の言葉にハッと気づくと、制服の袖でゴシゴシと僕の背中をふきだした。
きっと凛はタオルも持ってきてはいないのだろう。なんて女子力の低いやつだ。


大きな下り坂を全速力でおりる。
後ろにいる凛は、風でも感じているのか、気持ちよさそうに前を見ている。
坂をおりてすぐに、赤色の屋根の家が見えてきた。

「凛、家ついたよ。」

「ん、ありがと!またね!」

自転車から軽々しく飛び降りると、凛は手を振った。

僕もそれに軽く手を振って返す。
そのままゆっくり自転車を漕ぎだした。
少し軽くなった背中を寂しく感じながら、きっとそれも夕日のせいだと決めつけてみた。