「戻りましたー」

「岩井、お疲れ様」

「おう、奥田もお疲れ」


取引先から戻ってきた岩井春樹(いわいはるき)に、私奥田璃子(おくだりこ)はパソコンから目を離して、労いの声を掛けた。

私たちは総合商社の本社営業部に勤務している。同期である岩井とはそこそこ良い友達関係を築いている。

そう、私たちは友達。

だけど、私は岩井に恋心を抱いている。私の気持ちは誰も知らない。特に岩井には知られてはいけない。知られたら、三年かけてじっくりと築いた良好な友達関係が崩れてしまう。

パソコン横にある卓上カレンダーをふと見て、そっとため息をつく。

もうすぐバレンタインデーか……。昨日で一月が終わり、退社前に一枚めくった。祝日でもないのに、14日には『バレンタインデー』と最初から印字されていて、この日は国民的行事となっていることを物語っていた。

好きな人がいたら、きっと誰でも考える。チョコをあげようかどうしようかと。