ジークはその、もぬけの殻になった牢屋を信じられない面持ちで呆然と眺めていた。
この十年の間、いつもベアトリクスがここに収容されている光景が当たり前だと思っていた。

「なんということだ……」

怒り、危機感、絶望、様々な感情が入り混じって、ジークは鉄格子をぐっと握りしめることしかできなかった。

「さっき、地下から飛び出してくるソフィアを見たんだ。嫌な予感がして母上のところへ行ったら……。多分、ソフィアはそう遠くには行ってないと思って今、王都中を探し回ってるんだと思う」

眦を吊り上げるジークにレオンは自分の母の不祥事に、面目なさそうに視線を落とした。
何があるかわからないと、ジークはアンナに『自分が戻ってくるまで一歩も外に出るな』と言い残してきた。彼女は一気に不安げ表情を変え、そんな顔をさせてしまったと胸が痛んだ。
ベアトリクスはまた自分の命を狙ってくるだろう。しかし、ベアトリクスは悪魔のような女だ。簡単に息の根を止めるようなつまらない殺し方はしないはずだ。