それは翌日の昼休みのことだった。

「三笠」

 教室で剣淵が話しかけてくるなんて初めてのことである。昼食を共にしていた菜乃花は目を丸くして驚いていたが、佳乃は剣淵がきた理由を察していた。

「……うん。わかってる」
「話は早いな。少しツラ貸せ」

 声だけでなく姿から怒りのオーラがひしひしと伝わってくる。そりゃ、そうだ。怒っているだろうとも。そんな相手とこれから話すのだと思うと、佳乃は憂鬱になってくる。
 仕方なく立ち上がると、慌てたように菜乃花が口を挟んだ。

「待って」
「……あ? 誰だお前」
「あなたと同じクラスの北郷菜乃花です。佳乃ちゃんをどこへ連れていくつもり?」

 納得できる理由がなければ佳乃を渡さないとばかりに強い口調で聞く菜乃花に、剣淵は困っているようだった。手で顔を覆いながら「めんどくせーなあ」と小さく呟いたのが佳乃にも聞こえた。

「剣淵。菜乃花は事情を知ってる子だから」
「……事情ってことは、浮島さんについても知ってんのか?」

 佳乃は頷いた。昨日のことについても既に菜乃花に話している。

「佳乃ちゃんが心配だから、私も一緒に行っていいかしら?」

 心強いボディーガードだ。佳乃としてはぜひ来ていただきたいところである。
 剣淵はじっと菜乃花を観察した後、あっさりした反応で「勝手にしろ」と答えた。