それは、冷たい風が頬を撫でる大学からの帰り道、夕暮れ時のことだった。


茜に染まるコンクリートに濃い影を落とし、彼女は友人の女子高生らしき人影とともに、屈託のない笑顔で歩いていた。


髪に輝く天使の輪や、端正な顔立ち、そしてその美しい微笑みから、僕は目を離すことはできなかった。


……笑っていた。


何も知らず、無邪気に、無垢に、彼女は鮮やかな微笑みを浮かべていた。


あれから一週間が経とうとも、一度すれ違ったきりの彼女の姿は脳裏から消えることはない。


あぁ、好きだ。


愛している。


彼女を愛したいと思った。
彼女に"愛されたい"と思った。


だから、だから僕は——彼女の、全てを調べた。


彼女の名は葉月 沙奈(ハヅキ サナ)だということや、彼女は大学の最寄り駅からほど近い高校に通っているということ。


あの日彼女の隣を歩いていた女子高生は小学校からの親友ということや、美術部に所属していること、好きな食べ物はりんごで嫌いな食べ物は苦い物ということ。


明るくて優しい性格で、クラスでも人気がある存在だということ、昔付き合っていた彼氏がいたけれど、今はいないこと。


……ひとつひとつを知るたびに、彼女への思いは募っていくばかりだった。


彼女のことを一番理解しているのはきっと僕で。


けれど彼女にとって僕は一度すれ違っただけの人間で、触れたこともなければ話したことさえもない。


僕は、彼女の中に存在していたい。


そう考えた末、僕は、彼女を監禁することにした。


二月十八日、バレンタインデーから四日後のこと。


冷たい雨が降る日だった。