8話「いつもと違う」
「律紀くん。どんな事が恋人らしいと思う?」
「………好きです。」
「………え?」
夢は彼が考える、恋人同士とはどんな事なのか。
それを知りたくて、夢はそんな質問をした。すると、突然そんな告白をされた。
急な言葉に、夢は内心ドキッとしてしまう。
けれど、律紀はいつものようにニコニコしているだけで、至って普通通りだった。
それを見ていると、彼が告白したわけではないと、夢はわかった。
「えっと……今のは?」
「恋人同士は好きだと言い合うんだよね?」
「………そうだね。」
夢は唖然としながらも、彼の言葉を笑顔で受け止めて何とか返事をする事が出来た。
彼が考えていた事が、告白し合う事が恋人のすることだと思っていたのには、驚いてしまったけれど、彼が恋人契約した後にした事を考えると納得してしまう。
むしろ、夢のコップを準備してくれたのはすごい事だというのがわかった。
「ダメでしたか?」
「ううん。そういうのも大切なんだけど。………ねぇ、律紀くん。」
「はい。」
夢は、そんな彼を見て(これは、本当に教えなきゃいけないのかもしれない。)と思い、頭の中に思いついたことを少し頬を染めながら彼に伝えた。
「…………今度、デートに行かない?」
夢は思いきって、律紀にそう言った。
偽りだとしても、恋人同士の初デートを女から誘うのはドキドキしてしまう。それに、彼とは研究室だけの関わりだと思っていたので、研究以外の目的で会うのは律紀が嫌ではないかと心配になってしまう。
けれど、その不安は杞憂に終わる。
「はい。わかりました。では、次の休みの日にデートしましょうか。」
と、いつものニコニコとして笑顔で、賛成してくれたのだった。
その日の律紀からのおやすみのメッセージは、「週末はどうぞご教示お願いします。おやすみなさい。」だった。
夢はそのメッセージの内容を見て、「これは前途多難かもしれない。」と強く思った。