6話「年下の余裕」




 夢は後悔していた。
 何でそんなことになってしまったのか。
 「冗談でした。」と言える機会はいくらでもあったはずだ。もしかしたら、彼もそのつもりで言ったのかもしれない。

 けれど、そんな冗談を言ったことで明かしてしまったら、彼に嫌われるかもしれない。
 そう思うと、何も言えなくなってしまったのだ。
 嘘を重ねる事で、ますます嘘が増えてしまうのをわかっているのに。
 そして、もっと嫌われる要因が増える事を知っているのに。





 そして、まだ2回しか会っていないが、夢はわかった事がある。律紀は、とてもまめだった。 

 帰る間際に、「恋人になってら、どんなことをすればいいですか?」と聞かれた。
 夢は、頭の中は真っ白になっていたので、ただ思い付いた事を彼に伝えた。

 それが、「朝と寝る前の連絡。」だった。
 彼との恋人契約は、会って研究をしているだけだと思っていた。
 それなのに、話したときはそんな事を忘れてしまっていた。
 けれど、彼はそんな事は気にしていないようで、「わかりました。」とにこやかに笑って言ったのだ。


 そして、夢が家に帰り自分の失態で泣きそうになっていると、先程交換したばかりのスマホの連絡先に、律紀からのメッセージが届いた。
 夢はすぐにそのメッセージを確認すると、「今日はありがとうございました。これから、よろしくお願いいたします。おやすみなさい。」という、律紀らしい真面目なメッセージが入っていた。


 それを見るだけで、夢は心が温かくなった。
 自分がした事は間違いないだったのかもしれない。けれど、それでも彼からのメッセージはとても嬉しいのだ。
 

 律紀からのメッセージを見つめながら、夢は改めて思った。
 自分は、律紀に惹かれ始めているのだと。