『………あれ?私…いつの間にか寝てたんだ…』


私は目をこすった

『…………お母さんに早く会いたいな』


そんなことを考えてると扉があいた。
『おはよう………ここにご飯置いておくからね』
そう言うとテーブルにご飯を置いて扉に向かった。

『あ、ありがとうお父さん…』





………………………………………………今………私………………“お父さん”って言った?

………………………この人が………“お父さん”…だっ…け?


『…花菜………………………』
“お父さん”は振り返った

『花菜………………俺のことを………』

“お父さん”のお腹の部分の服が赤く滲んでいく。そして足の爪先からだんだんとアルストロメリアの花びらになっていく

『花菜………俺のことを…お父さんって呼んでくれて…ありがとう…』

『待ってっ!!!!!!』

お父さんが消えちゃう…





私がのばし、掴んだ手のなかには花びらしかなかった。

『な…なんで………お父さん………うぅっ…』


                      

                         

『花菜………』

『!!!…お母さん!!』

急に名前を呼ばれ、ふりかえるとそこには優しい表情を浮かべたお母さんがいた。

『さぁ…花菜。いらっしゃい』

お母さんは笑顔で腕を広げた。

『………お母さん!!…ずっと…ずっとあいたかったぁ!!』

私は手に持っていた花びらを投げ捨ててお母さんのもとへ走った。

そして勢いよくお母さんの胸のなかに飛び込んだ。

『花菜………大きくなったね………お母さん嬉しいわ…』


『………………………………………………………………………』


『花菜?どうしたの?黙ってるけど………』


『………………………………………………………………………』

『花菜?ねぇ本当にどうし』

『あなただれ?………』

『………え?…な、なにを言ってるの?私はあなたのお母さんで』

『私のお母さんはこんな酷い匂いしないよ?もっと………もっといい匂いがするよ?』

『に、匂い………?』


だんだんと見えてきた。

さっきまですごい光輝いて綺麗だったお母さんの姿。

それが今ではところどころ黒くにじんでいる姿をしている。


『その匂いはお母さんじゃない………あなたは…私のお母さんなんかじゃ………』



逃げよう


もう私の目の前に入るのはお母さんなんかじゃない



お母さんの姿をした…化け物だ


『は、早く逃げなきゃ!!』


『………………逃がさない…』


私は髪の毛を引っ張られる

『痛い!!!やだっ!離して!!!!』


『絶対に………逃がさないから…』














「………おい」


「っ!!!」

「これからはここからお前に飯をやる、自分でとって食べておけ」


そう言うともう声は聞こえなくなった。



「ハァッ……ハァッ………ハァ………」


今のは………………夢………………

………………………………夢………だったの………


私は額の汗を拭う。

身体中汗でびっしょりだ。


私はあたりを見回した。

一人用のベッド、冷蔵庫にキッチン、テーブルもある。

「こ、ここは………地下………」


私が5年間いた場所だ。

「私はまた………ここに…」


ふと目に止まった。


それは黒く汚れたリリちゃんとくたびれてしまったアルストロメリア。


「これも…………………………夢が良かったな………………」


不思議と涙は出てこなかった。



ただ………ただ辛いだけ



私はもう1人ぼっちなんだろう………


以外とこんなとき、人は冷静なんだなと思った。


この間まではお母さんのためにここで生きてきた。脱出もやった。


けれど今は………………………………やることがない………もうなにも………することが…………………本当になにもない


「…………………生きる…意味さえも…………」


私はポツリと呟いた。

そして私は今までここになかったものに目をやった。


壁にできた小さな扉。

扉はガラスでできていて、ご飯が中に置かれているのが見える。

これは絵本で見たことがある。

動物園とかで飼育員が動物に餌をあげるために使う扉だ。



「…………ほんと…人間扱いされてないんだな…………」

昨日だって私のことを物のように扱ってここまで連れてこられた。

「あ、そっか…………」

さっき見た夢でわかった

「昨日…お母さんに抱きついたときに気持ち悪いって思ったのは…………匂いが違ったからなんだ…」


昨日抱きついたとき…………香水の匂いがした。
友達が持っていたのと同じ匂いがした。

今までのお母さんなら香水なんてもの絶対に買わない

食べ物を買うだけでも必死だったから

香水なんて…………絶対に買わなかった…………



「…………………………寝ようかな」



もう起きたくない


2度と起きたくない


なにもかも忘れて永遠に眠っていたい



私は再び眠りにつこうとベッドに上がった。



「…………………あ、リリちゃんと一緒に寝よう」

私は床に落ちているリリちゃんを拾った。


そして固まった。



「…嘘……これって…………………………」


リリちゃんの影でさっきは見えなかった。



「これは……………………………………」


ここで今日はじめて泣いた



涙が溢れ出てくる



「……うぅ……お父さん…………」





そこにはお父さんの日記があった


あのとき、お父さんを殺してしまったときに見つけた日記



私はお父さんの日記を抱き締めた






あと1日だけ…………………………



……………………………これを見るために………


…私はあと1日を生きようと


そう決めた