朱国から帰国して数日後、俺は交番ではなく警察署にいた。朱国の刑事がわざわざドリス国まで来て、俺を呼び出したためだ。

「……お話というのは……」

普段、警察署に来ることはないので、緊張しながら俺は刑事に訊ねる。

朱国で入れ墨男が倒れ、リリーも倒れた後、警察の捜査で男が飲んでいた酒の瓶から毒物が検出された。男はリーの迅速な対応によって一命は取り留めたが昏睡状態になり、警察の監視のもと病院に入院となったはずだ。

男が話していた黒幕のことやリリーの秘密は気になるが、リリーが半日ほど経って目を覚ました時に最初に発したのは、「リーバス、どうしたの?」という言葉だった。

リリーは朝の記憶を全て失っていた。リー曰く、「ショックが大きすぎたため、脳が記憶を消してしまった」らしい。この場合、記憶を無理に思い出させようとすると、本人が苦しみ、全ての記憶を消してしまう可能性もあると聞いた。

そのため、リリーには何も聞かず、俺たちは朱国を後にしたのだ。

薄暗い会議室の中。俺より背が低いのに、どことなく威圧感のある刑事が口を開いた。