人混みに消えて見えなくなっていった彼女。

駅に着くとそこには彼女の姿があった。

「ねぇ、君。」

彼女はそっとイヤフォンを外して
少し驚いた顔で僕の方を見た。

髪がふわっと風になびいた。

「薫…だよね?北沢薫。」

幼く凛とした目が丸くなり、
戸惑いの表情を浮かべた。

「なんで。知ってるの、私の名前。」

え……。思いもよらぬ答えが帰ってきた。

焦って彼女に駆け寄り

「俺だよ俺。風太、河上風太。」

そしたら僕の言葉を遮るように

「知らない。」

そうはっきり言った。