開発部は定時なんて、あってないようなものだ。日付けが変わらなければそれでいい、そんな感じ。

だから、今日は21時に会社を出た。もちろん、1人で。翔平はまだ遅くまで残るようだ。

「……今年のクリスマスも1人なのかな」

マフラーに顔を埋め白い息を吐きながらひとりごちるも、その質問に答えてくれる人はいない。

今まで、恋人は何人かいた。クリスマスを共に過ごしたことだってある。だけど今までの恋人は翔平にヤキモチを妬いてもらうための存在だった。本当に大好きな人とクリスマスを過ごせるなんて、生まれて初めてだと思っていたのに……。

友達という今までの関係を壊すのが怖くて、彼から告白されるまでずっと想いは胸に秘めたままだった。だけど、恋人になった今でも、あたしは臆病なまま……。

「あ、あの……!」

不意に肩を叩かれた。
驚いて振り返るあたし。

目の前には、真っ赤な服に白いフサフサの髭の……

「サ、サンタさん……!?」

目の前に立っていたのは紛れもなくサンタさんだ。赤い服に赤い帽子もちゃんと被っている。

「驚かしちゃってすんません。これ……」

サンタさんは息を切らして何かを渡してくれる。反射的にあたしは受け取ってしまった。

「これは……!」
「さっき、落としたんすけど」

それは大学時代に翔平がくれた懐中時計だった。彼が初めてくれたプレゼントだ。
サンタさんは走って届けにきてくれたらしい。

「ありがとうございます!これ大切なものなんです!」

危うく失くしてしまうところだった。サンタさんに慌てて頭を下げると彼は照れ臭そうに白い髭を引っ張った。

「翔平先輩からの大切な贈り物っすからね。追いついて良かったっす」
「……え?」

サンタさんの言葉に驚いて、顔を上げる。

翔平先輩?サンタさんがどうして、翔平を知っているの?