〝梅雨が明けたもようです〟と伝えるアナウンサーの声を聞きながら、芹花は今朝もリビングのソファで休んでいた。
彼女は三人掛けのソファに体を丸めて目を閉じ、時折苦し気に顔を歪める。
色白の肌は普段よりも青白く、目を開けているのも億劫だとばかりに目を閉じている。
ここ数日水分以外ほとんど食べられない状態が続き、ただでさえ華奢な体がいっそう細くなった。

「何も食べられないのか? 芹花が好きなハンバーグでも焼肉でも、何でも用意させるぞ? あ、オレンジジュースでも持ってこようか」
 
ソファで横になっている芹花の傍らにひざまずいた悠生が、おろおろしながら芹花の肩を撫でる。
そろそろ出勤しなくてはならない時刻。
スーツに着替えたものの、芹花が気がかりで、仕事に行く気持ちになれないでいた。

「芹花が食欲をなくすなんてよっぽどつらいんだよな。普段はあんなになんでも食べてるのに……かわいそうに」
 
芹花の手をぎゅっと握りしめた悠生は、掴んだ手を自分の額に当て、辛そうにため息を吐いた。

「俺が代わってやれたらいいのにな」
 
今にも倒れてしまいそうな苦し気な声に、芹花は力なく笑った。

「ハンバーグとか焼肉とか、食べられるなら食べたいけど、今はとてもじゃないけど無理……」
「だったら、何が食べたいんだ? ちゃんと食べないと、どんどん痩せてるじゃないか。そのうち死んでしまうんじゃないかと気が気じゃないんだ」
「まさか、そんなことないから。心配し過ぎです」
 
芹花はかすれた声でそう言って笑うが、死んでしまいそうなのは悠生の方だと反対に心配になってしまう。
ただでさえ社長としての毎日で心身ともに疲れているというのに、必要以上に芹花を気にかけ、参っている。
大丈夫だと何度言っても、芹花のことが心配で心配でたまらないらしい。