十二月に入ったある日、芹花は事務所のデスクに座って時計とパソコンの画面を交互に見ていた。
その表情は硬く、色白の肌はいっそう白く見える。
手元には午前中にコピーを終えなければならない資料が積まれているが、彼女には珍しく後回しにされていた。
 
その時、デジタル時計が九時三十分に変わった。
芹花は一度深呼吸し、既に掴んでいたマウスを操作した。

「どうか、合格していますように」
 
気合を入れてクリックすると、パソコンの画面にはいくつもの数字が表示された。

「えっと……」
 
眉を寄せて、暗記済みの番号を探すこと数秒。

「あった。合格したっ」
 
芹花は椅子の背に勢いよく体を預け、胸元でガッツポーズを作った。

「やったー。これでもう、勉強しなくていいんだ」
 
座ったまま足をバタバタさせ、何度も「やったー」と口にする。
いつも穏やかで感情の起伏が少ない彼女のそんな姿に、周囲からは驚きの視線が向けられる。
中には芹花が抱える仕事量があまりにも多く、ついに耐えられなくなったのかと慌てた者もいた。

「お、一発合格か。おめでとう」
 
ちょうど芹花の近くにいた三井が、芹花のパソコン画面を見ながら笑顔を見せた。

「はい。頑張った甲斐がありました」
「試験前は睡眠不足で死にそうな顔をしてたから、心配したけど、よかったな」
「ありがとうございます。あの頃は、勉強しないと不安になってしまうくらい机に向かってました。合格してよかったです。とはいっても、すぐにこの資格を使って仕事をするわけではないんですけどね」
 
そう言って肩をすくめた芹花に、三井は大げさに顔をしかめた。

「そうでないと困るよ。天羽さんは事務所の大きな戦力なんだ。資格を取るのはいいことだけど、事務所をやめられたら困るし、寂しいよ」
 
三井の大きな声に、周囲から視線が集まり、あちらこちらから焦った声が上がった。