六月に突入した。この季節は梅雨でジメジメするし、天気もよくないから気分が沈みがち。でも、これを乗り越えると夏休みが待っている。

でも暑いのは苦手。汗かくとベタベタして気持ち悪いから。

だけど、夏はきらいじゃない。

「亜子ちゃんの好きな食べ物は?」

「納豆、かな」

「じゃあ、嫌いな食べ物は?」

「きゅうりとピーマンだよ」

「へぇ、草太と一緒じゃん。って、おまえピーマンだけよけんなよ。ちゃんと食わねーと、育たないぞ」

お昼休みの中庭で、本田君と高木君との三人でお弁当を囲んでいる。

本田君はおかずのピーマンだけを器用に残して、お弁当箱の隅に押しやっていた。それを見た高木君が呆れたように笑っている。

「もう十分育ってるから、いいんだよ」

「やらしーな。なにが育ってんだよ」

「身長に決まってるだろーが」

ニヤニヤしながらからかう高木君と、ムキになって返す本田君。二人は言い合いが多いけど、どこか楽しそう。

「二人って、ほんとに仲良しだね」

「まぁね。もう付き合いも長いし、お互いのことを知り尽くしてる感じ? 草太のことなら、この俺になんでも聞いてね、亜子ちゃん」

「あはは、ありがとう」

高木君は気さくでとても話しやすい。ゆるいというか、軽いというか、誰にでも優しいというか、お調子者だから誰に対してもこんな感じ。

「なんで俺のことを拓也に聞くんだよ。俺に聞けっつーの」

本田君は意外とムキになるところもあって、子どもっぽい一面もある。

そもそもの始まりは、一人で中庭でお弁当を食べていたところに本田君と高木君が偶然通りかかって声をかけてくれたこと。

きっと、一人寂しくお弁当を食べていた私を見て気を遣ってくれたんだと思う。

「まぁ、草太はただの野球バカだからいいとして。亜子ちゃんの好きな男のタイプは?」

「好きなタイプ? うーん、そうだなぁ。思いやりのある人、かな」

「ふーん、思いやりねぇ」

ふむふむと納得したように頷きながら、高木君は本田君の脇腹を肘で小突く。

「なんだよ」

「聞いたか? 思いやりのある男が好きなんだって」

「言い直さなくても、聞こえてるっつーの」

「じゃあさ、ピーマン残す男ってどう思う?」

「え?」

ピーマン?

「はぁ? ピーマンは関係ないだろ。柳内さん、真面目に答える必要ないから」

じとっと高木君を睨む本田君。

「いやいや、これからのおまえの人生にかかってんだよ? ピーマンが食べられるようになるか、ならないかっていう」

「はぁ? わけわかんねーことばっか言ってんじゃねーよ。うわ、柳内さんのその唐揚げ美味しそう」

さりげなく話題を変える本田君。本田君の目は、私のお弁当箱の中の唐揚げを見てキラキラと輝いている。

あはは、子どもみたい。

「考え事しながら揚げてたら焦げちゃったんだよね。それでもよかったら、食べる?」