目を開けると部屋に差し込む光から空が白んできているのがわかり、それでおおよその時刻に見当がつく。長らく暗く冷たい冬が王都を包んでいたが、徐々に春の息吹に押し出されている。

 今朝もけっして寒いわけではない。むしろじんわりと寝汗をかいているくらいだ。セシリアは大きく息を吐いて、素早くベッドから出た。

 冷たい水で顔を洗い、てきぱきと支度する。初めて着たときは重いと感じた赤と黒の団服も、今ではすっかり体に馴染んでいた。むしろ団服以外を着る方が落ち着かないほどに。

 闇と気高さを表す黒を基調とし、光と礼節を示す赤がラインと裏地に取り入れられている。肩章、飾緒、フロント部分にシンメトリーに並ぶ釦などはすべて金で施され、胸元には黒の盾(エスカッシャン)に赤の十字(クロス)。

 中央部にはこの国の誰もが知っている王家の象徴、双頭の鷲が描かれている。

 肩下で揺れる柔らかい金の髪をひとつに束ね、捻りながらまとめ上げる。飾り気のない簡素な髪留めで固定すると彼女のいつものスタイルの完成だ。

 アルント王国国王直属の管轄にある『アルノー夜警団』は王や城はもちろん王都アルノーの警護も承り、人々の安穏な暮らしを維持するため官憲組織の役割も担っている。

 市民からの訴えを受け、国王からの命でときには騎士団として近隣諸国へ赴くこともあるのだが、その際に彼らが共通して掲げる基本理念は『必要最低限の介入を』というものだ。