ケータイ小説 野いちご

嫁にするなら訳あり地味子に限る!

1.地味子ちゃんが故障して困っていたコピー機を直してくれた!

ようやく明日の新製品のプロジェクト会議の資料が完成した。まだ8時だけれど、もう8時。ずっと休む時間がなかったので疲れた。

今日は朝から各担当者を回って詳細を最終調整して、定時にようやく調整が終わった。

それから資料を修正してプロジェクトリーダーの室長との最終打合せ。室長は帰らずに待っていてくれた。

概ね室長とは意見を調整してあった、というよりも室長の意見を取り入れて調整して回ったので、調整結果の報告を兼ねた最終打合せにそれほど時間は掛からなかった。

それから、資料を修正してなんとか完成した。すぐにコピー室へ向かう。

今の時間、ほとんどの社員は退社してコピー室に人はいない。原稿は添付資料を含めてA4で8枚、両面印刷をして4枚の資料となる。コピー機に原稿をセットして、タッチパネルで部数、両面印刷、ソート、ホッチキス止めなど必要事項を入力してスタート。

最初は順調に動いていたが突然コピー機がストップ。ええ・・・なんで止まるんだ! パネルには紙詰まりの表示が出ている。参った! 

表示に従って、機体の扉を開く。確かに紙詰まりで、詰まった紙を取り出したが、相変わらず、紙詰まりの表示がでている。困った!

以前によく研究所で使っていたコピー機はこれほどの機能はなく大型でもなかったので、自分で直せたが、最近の大型機は便利だがブラックボックス化していて一旦トラブルが起こると簡単に直せなくなっている。

そこへ黒縁のメガネをかけた小柄な女子社員がコピーをするために入室して来た。

「どうしました?」

「紙詰まりで、詰まった紙を取り除いても復帰しない。明日一番で必要な資料なので困っている」

「私が見ましょうか? 私も結構紙詰まりのトラブルに合っていますので」

「見てくれる?」

女子社員は扉を開けていろいろな部位をチェックしている。あんなところもチェックするのかという箇所も見ている。

「紙が一枚残っていました。これでおそらく大丈夫です」

扉を閉じると復帰した。大したもんだ。

「ありがとう助かった。すぐに印刷は終わるから」

「でもちょっと待って下さい。資料の日付が目に入ってしまいましたが、明日の資料ならこの日付は間違っていませんか?」

「ええ・・・」

そうだ、プロジェクトの打合せの日が変更になったのを修正していなかった。室長に説明したが、二人とも気づかずに見落としていた。こういうことはたまにある。

「ありがとう。すぐ原稿を修正してくるから、先にコピーしていて下さい」

「じゃあ、コピーさせていただきます」

よくチェックしたつもりだったが、急ぐとろくなことはない。落ち着いて! 席に戻ると日付を修正してから、もう一度原稿をチェックした。もう一か所、ミスタイプを発見した。

それからコピー室へ。まだ、女子社員がコピーをしていた。黒いスーツ、髪は後ろで束ねてポニーテイルにしている。地味な子だけど、一目で日付の間違いを見つけてくれた。

「どうぞ、先にしてください。私はまだ多くありますので、時間がかかります」

「じゃ悪いけど、部数も少ないので、させてもらうよ。ありがとう」

コピーはすぐにできた。トラブルがなければあっと言う間にできる。すぐに女子社員と交代する。女子社員はまたコピーを始めた。胸のIDを見ると「横山美沙」と書かれている。

「横山さん、コピー機を直してもらってありがとう。助かったよ。明日、朝一の会議で使うので今日中に作れてよかった」

名前を呼ばれて驚いたようすを見せたが、IDを見られたと分かったようで、ニコッと笑った。ど近眼か? 度の強い分厚いメガネをしている。

「どういたしまして、コピーをすることが多くて私も随分紙詰まりには悩まさせられましたから、今ではコピー機のほとんどのトラブルに対応可能です」

「たいしたもんだ、じゃあ、またトラブルがあったら頼みます」
「喜んで」

「僕は企画開発室の岸辺といいます。ところで、あまり見かけないけど、横山さんの所属は総務部?」

「私は派遣社員で、総務部で働かせていただいています」
「遅くまで大変だね」

「残業手当をいただけるので助かります。お給料がそんなに多くないので」

「じゃあ、そのうちに食事でもご馳走するよ、今日のお礼に」

「業務の一環ですから、お気遣いは無用です。失礼します」

彼女のお陰でようやく資料が完成した。やれやれ! 彼女がコピー機を直してくれなければ、今も悶々としていたことだろう。これで明日の会議に余裕をもって臨める。朝からバタバタしているとろくなことがない。

総務部と同じフロアーだけど、あんな子がいるとは気が付かなかった。地味な感じであれなら目立たないし、気付かないかもしれない、正に地味子ちゃんだ。

僕は企画開発室のプロジェクトマネージャーで課長代理。室に課長代理はおかしいが役職名。一応管理職、だから残業代はない。

入社12年で35歳、独身。部下は一人いるが入社2年目の男子社員で仕事の仕方を教えているところ。

上司は竹本企画開発室長で研究所時代の直属の上司、本社へは5年前に異動して来ている。そして僕はその室長に呼ばれて3年前に転勤して来た。

本社へ来て気が付いたことだけど、人脈と言うのは確かにある。竹本室長も研究所での直属の上司だった野口本部長に呼ばれて本社に来たと聞いている。

他の部門でも同じで、聞いてみると「今の部長は以前別の部門での直属の上司でこの部へ呼び寄せられた」というのが多い。部下には仕事ができて気心の知れた信頼できる人がほしいというのは人情だ。

8時半過ぎに仕事を終えてオフィスビルを出た。ビルは虎の門にある。少し前をさっきの地味子ちゃんが歩いているのに気が付いた。リュックを肩にかけている。

声をかけようと思ったが、この時間なので遠慮した。こちらに気付いていないので後を歩いて行く。帰る方向は同じみたいで、地下鉄の階段を下りて行く。

銀座線表参道で半蔵門線に乗り換えたので同じ方向だ。同じ車両に乗ってみたが、地味子ちゃんはスマホに夢中でこちらに全く気付かない。

8時過ぎになると電車はつり革が掴める程度には空いてきている。これが9時を過ぎるとまた混んでくる。

最寄り駅の二子新地で下車した。地味子ちゃんはまだ先みたいだ。

駅前のコンビニで弁当を買って家へ急ぐ。駅から5分ぐらいの1LDKの賃貸マンション。本社に転勤する時に独身寮から移った。

一人暮らしだから気楽なもの。テレビをつけて、ビールを飲みながら弁当を食べる。それから一休みしてシャワーを浴びてベッドに横になり、取り溜めたビデオの番組を見る。

眠くなると一日が終わる。今日も疲れた、おやすみ!

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