「野球かー、俺は高校野球しか見ないっすね」

「柑奈ちゃん、突然どうしたの?今夜は雪かしら?」

「プロ野球好きとしては、ドラフトには注目するけど社会人野球まではなぁ」

次々と私へ集中砲火を浴びせたのは、会社でも仲のいい三人。

後輩の翔くんと、先輩の沙夜さん、そして上司の淡口さんだ。
私との関係性を一言で表すと、翔くんは弟、沙夜さんは姉、淡口さんは父のような存在である。


「選手までは把握してないが、やまぎんはたしか毎年日本選手権でもいいところまで行ってるよな?」

仕事中だというのに、新聞を広げてスポーツ欄をチェックし出す淡口さん。

地元の小さなガス会社に勤める私は、市内に構えるこじんまりした事務所で日々事務員として邁進している。
本当に細々と経営しているため社員数も少なく、手が空いている時間なんかはこうして世間話に花を咲かせることも少なくない。

沙夜さんは淡口さんが広げた新聞をのぞき込むようにして、「野球とか興味なーい」と気のないことをつぶやいている。

一応、先ほど営業さんがとってきた契約を確認しながら、パソコンで書類を作成する。
カタカタとキーボードを打ちながらも、私の視線は淡口さんの新聞に向けられていた。

「やまぎんは強いってことですか?」

「まあ、道内ではほぼ敵なしじゃないかな……あ、ほら、昨日の試合も勝ってるね」

「今度、やまぎんの試合観戦に行くことになっちゃって」

何気なく言ったつもりだったが、それはほかの三人にとってはそれなりに衝撃的だったらしい。
揃いも揃って目を丸くして私を見つめてきた。