東京ドームからは少し離れた、電車で三駅ほどのところにホテルをとっていた。
山館銀行が決勝まで行くと踏んでいた凛子は五泊分連泊で予約をとっていたので、同じ部屋へ戻った私たちはドサッとベッドへ寝転がる。

グルメ本でチェックしていたオシャレなお店で食事をして飲んだ帰りだった。


「あーーー気持ちいい」

すっかり酔いも回って足元がフラついていた凛子を支えるようにして歩いてきた自分を褒めたい。彼女は言葉通り、気持ちよさそうにベッドに仰向けになりながらニヤニヤしていた。

明日が準決勝、勝てば明後日が決勝。
こんなにある意味充実した夏休み、初めてかもしれない。

隣のベッドに横になった私は、ぼんやりと今日の試合を思い返していた。


取り立てて身長が高いわけでもないし、野球選手にしては華奢なのに、すごい力だなあ、と。
東京ドームは狭い方だなんて言うけれど、それでも三塁打を打てるなんてすごい。

彼だけがすごいわけじゃないのは分かっている。
同じように試合に出ている人たちは、みんなそれぞれ想像もできないようなトレーニングを積み、努力を重ねているのだろう。

分かっているはずなのに、藤澤さんが他の人たちよりも少しだけ輝いて見えるのはどうしてだろう。


試合中に彼を見ると、胸がドキドキして苦しい。
スポーツ選手のファンになった人たちは、毎度毎度こんな気持ちになりながら応援するのだろうか。
これじゃ試合が終わる頃には、もう疲れ切ってしまわないだろうか。

私だって明日の試合で、また心臓が破裂しそうなくらい稼働するのは分かりきっているわけで。

双眼鏡持っていくのをやめようかと思うほどだ。
あれを使うと、細かい表情までよく見えて心臓に悪い。


「ねー、凛子。明日は何時にドームに着くように行く?朝から行くならさ……」

隣で動かない凛子に話しかけるが、一向に返事がない。
おや、と起き上がると彼女はすでに大の字で夢の中へ行ってしまったようだ。

昼間にあれだけ汗もかいたし、せめてシャワーを…と彼女を揺すったが、もう起こすのは無理だと悟った。

フレンチスリーブの袖口から少し日に焼けた腕が伸びていて、エアコンの風が当たると冷えてしまいそう。
彼女の腕と身体を隠すように、タオルケットをかけてあげた。


明日も早起きして、ドームに向かおう。
準決勝だからおそらく混むだろうし、それならば早めに行って席をとっておきたい。

私はそう決心してベッドから降りると、ヒタヒタと裸足で浴室へ向かった。