夏休みだと盛り上がっていたのがつい昨日のようだ。
あっという間に夏休みが終わり、今日から二学期が開始された。
私を含め、クラスメイトはまだ夏休みの余韻が抜けていなく、授業中寝ている人がいるのが窺えた。
「X =2、これを代入すればこの面積の答えが出ます」
そして最初の授業は、数学。
藤宮先生は教科書を片手に持ち、チョークで黒板を指さしながら黙々と話を続ける。
授業の時には眼鏡をかける姿。
ボタンを留めずに黒のスーツのジャケットを軽く羽織っている姿。
先生のその姿は何も変わっていないのに。
授業が退屈で窓の外を眺めることが当たり前だったのに。
授業が退屈でも、すぐに先生の方へ視線を向けるのはどうしてだろう。
それは実に不思議なことだった。
あの優しさと、儚くて消えそうだった先生の表情が、ずっと忘れられない。
「じゃあ今日はここまで」
「起立、礼」
そして時間はあっという間に過ぎていく。
先生は普段通り、教科書をまとめて足早に教室を出る。
「莉奈なに見てるの?」
風夏は不思議そうに私の顔を覗き込み、同じ方向へ視線をやる。
「なんでもない!あ!売店ついてきて!パン買いに行こ」